【私本太平記5 第1巻 下天地蔵5〈げてんじぞう〉】🎍「‥あの傲慢な生き物が、わしには、まざと、鎌倉の執権殿そッくりに見えてきたのだ。そこが酒だな。もう余りは過ごすまい」 「右馬介、右馬介っ。早く来い。逃げるが一手だぞ」 わざと五条橋を避け、 主従とも、七条河原へまぎれたのは、 相手の追尾《ついび》よりも、帰る先と、 身分を知られることの方が、 より恐《こわ》かったからにちがいない。 「いやどうも、若殿のお悪戯《わるさ》には、 驚きまいた。物にもよりけり、相手にもよるものを」 「やはり酒のなせる業《わざ》だったな」 「そんなお悪いご酒癖《しゅぐせ》とは、 ついぞ今日まで、右馬介も存じませんでし…