源氏は、 「この秋の季節のうちにお嬢さんの音楽を 聞かせてほしいものです。 前から期待していたのですから」 などとよく入道に言っていた。 入道はそっと婚姻の吉日を暦で調べさせて、 まだ心の決まらないように言っている妻を無視して、 弟子にも言わずに自身でいろいろと 仕度《したく》をしていた。 そうして娘のいる家の設備を美しく整えた。 十三日の月がはなやかに上ったころに、 ただ「あたら夜の」 (月と花とを同じくば心知られん人に見せばや) とだけ書いた迎えの手紙を浜の館《やかた》の 源氏の所へ持たせてやった。 ✴︎明けるのがもったいないようなこの春の夜の月と花とを、 同じ見せるのなら 情趣を解する人…