この頃、美福門院がおかくれになったので大赦があり、 牢につながれた文覚もこの恩恵に浴し、出獄した。 しかし文覚は、遠くの山にでも行って修行でもなされば、 という声には一向馬耳東風、平然たる面持で再び例の勧進帳を京の街に読み、 諸方に寄進すべき檀那を求め歩き廻っていた。 これだけでなく、勧進帳を読むかたわら不吉なことを大声にいいふらすのである。 「もはや今の世は末世じゃ、この世に戦乱起って乱れ、君も臣も共に亡びるじゃろう。 かくすることこそ、この浅ましき世の救いとはなるじゃろう」 すでに戦乱の不安にさらされていた人心である。 この確信ありげな坊主の託宣に動揺する懸念は十分にある。 人心のみでない…