売文をしていた時期がある。書評だとか、解説だとか、ちょいとしたこぼれ噺だとかの雑記事である。署名記事も無署名仕事もあったが、どうしても私でなければならぬ理由などはない、いわば埋草ライターだ。 書いて名を挙げようとか、たんまり稿料を稼げるようになろうとかいう料簡はない。われら業界の片づけ屋は、そういう青臭い向上心とは無縁の玄人職人集団なのだと、当時原稿を買ってくださった編集者や媒体担当者諸君としばしば申し合せたものだった。三十年ほど前のことだ。覚悟であり誇りでもあったが、僻みでも居直りでもあった。 もとより反響だの評価だのが期待できる仕事は、めったにない。どこのどちら様がお読みくださるかなど、見…