外村 繁(1902 - 61) 富士と河口湖を望む天下茶屋の二階展示室で、ふいに外村繁を思い出した。当店を訪れた文士たちのスナップ写真のなかに、井伏鱒二を取囲む面々といった一枚があって、外村繁らしい姿が半身だけ写っていたからである。 現今の読書界の流行は知らない。近代日本文学研究の学会動向はもっと知らない。想像するに、外村繁を愛読する人も、研究する人も、めったにあるまい。が、忘れてよろしい作家ではない。忘れたくない作家の一人である。 出版事情を検索してみると、『澪標(みおつくし)』『落日の光景』が併録された文庫本が、わずかに活きているようだ。後期の代表作で、病妻もの私小説である。再婚の妻が乳が…