3.賢治の理念と命題は万人に適応できるものかどうかもわからない。 詩「小岩井農場」(パート九)で,賢治は宗教者としての分身の主張を受け入れて「宗教情操→恋愛→性欲という命題は可逆的にもまた正しい」と判断していたが,この命題は物理学的法則のように本当に正しいのか。 詩人で思想家の吉本隆明(2010)は賢治の命題が正しいかどうか論ずる前に,そもそも「宗教情操→恋愛→性欲」への漸移はないと言っている。吉本は自著でこの命題に対して,「宗教から恋愛へ,そして性慾へと連続して流れてゆく情操と願望のうつりかわり(変態)という理念は,宮沢賢治の生涯の理念であるとともに,生涯によってじっさいに演じられたドラマだ…