苦悩の静謐――マルクス・アウレーリウス『自省録』における内なる葛藤の哲学的省察 ローマ帝国の最盛期を治めた五賢帝の最後の君主、マルクス・アウレーリウス。彼が遺した『自省録』は、哲人皇帝としての面貌を余すところなく伝える珠玉の哲学的日記である。その一頁一頁には、ストア派哲学に則った克己と自律の精神が刻まれているが、その行間からは、一人の為政者として、また人間としての深い苦悩と葛藤が滲み出ている。本稿では、この『自省録』を「苦悩の静謐」として読み解き、その内なる声に耳を傾けつつ、哲学と権力、そして孤独の問題を繙いてみたい。 マルクス・アウレーリウスは、西暦121年にローマに生を受け、後に皇帝アント…