大岡越前守:滴翠軒 1911年(明44)金正堂刊。袖珍講談文庫。 作者名の滴翠軒(てきすいけん)とは京都東本願寺に付属する庭園渉成園にある茶亭と同名であり、版元の都合で便宜的に使われた筆名ではないかと思われる。この本は、大阪の二つの版元(金正堂と文祥堂)が共同で刊行した袖珍講談文庫の一冊で、奥付の著作者名には講談文庫編輯部としか記されていない。 この頃には講談速記本から「書き講談」へと変化して行ったようで、口語体での書き言葉の使用も安定してきた。日清・日露の戦争での勝利を経験した日本人が国力への自信をつけ、「国家精神の涵養」を意図した偉人・賢人・豪傑・名将の事績をこのような講話本を通して学ぶ意…