葛城の和歌と聞いて私が思い出すのは、大来皇女が、弟である大津皇子の刑死を傷んで詠んだ歌だ。 恋愛感情ではないけれど、一方通行の思慕を葛城連峰の山に向けているという点では、前回の「高間の山の峰の白雲」(新古今集、990)の歌と共通している。 大津皇子の屍を葛城の二上山に移し葬りし時、大来皇女哀傷みて作りませる御歌二首 うつそみの人なる吾や明日よりは二上山を兄弟(いろせ)とわが見む (うつそみの ひとなるわれや あすよりは ふたがみやまを いろせとわがみむ) 磯の上に生ふるあしびを手折らめど見すべき君がありといはなくに (いそのうえに おうるあしびを たおらめど みすべききみが ありといわなくに)…