研師にして剣士。 どちらの手腕(うで)も紛うことなき一級品。 そのまま時代劇中のキャラクターに具せそうな、――山尾省三はとかく刃物の扱いに熟達したる者だった。 (『Ghost of Tsushima』より、刀鍛冶) 米寿を超えてなおも現役。髪は落ち、皮膚は弛んで白髭をちぢれさせようと、指先の冴えは失わぬ。鳥取県は米子城下の四日市に居を構え、農具や庖丁等を手入れし日々の稼ぎに充てていた。 職人として好ましき老い方であるに違いない。「生涯現役」、ほぼほぼ理想に近かろう。 そういう山尾省三が、どうしたわけか、あるとき人を刺殺した。 正確な日付を示すなら、昭和五年の三月二日。 相手は若齢二十七歳、山尾…