「文学の鬼」と異名をとった宇野浩二については、盟友広津和郎あるがゆえに、多くが語り残されている。なにせ学生時代以来の親友で、文壇にあってもお神酒徳利さながら、つねに一対のごとくに視られてきたご両名だから、当然だ。 藤村花袋、菊池芥川、横光川端など、いく対かの有名コンビが数えられるが、なんといっても逸話の面白いのは、広津宇野コンビである。 しかし戦後(晩年)の宇野の側近に、弟子として仕えたのは、水上勉だ。松本清張と並んで社会派推理小説の大家とされる、あの水上勉である。師弟の作風の違いを思えば、意外と感じる向きもあろうが、水上による『宇野浩二伝』上下二巻にお眼通しいただければ、意外さは氷解する。こ…