もうじき春分というこの季節、温暖地の農家は野菜の育苗を始める。近ごろは電熱温床が主流だが、有機農家などで伝統技術の「踏み込み温床」を作って使う例がある。農家だけでなく、家庭菜園者のなかにも自然エネルギー利用のこの技術に注目する人がいる。その技術の概要を紹介しよう。 踏み込み温床は、原理としては堆肥の発酵熱のしくみを応用したもの。古代ローマをはじめ世界各地に似た技術があったと伝えられるが、日本では江戸時代初期に江戸近郊の農民によって考案されたとされている。 その目的は、江戸庶民や武家の「初物嗜好」に応えるためだったようだ。早出し野菜が高値で売れたのだろう。1日も早く夏野菜が収穫できるよう、春に温…