小杉一雄の著作を蒐集した時期があった。中国美術史、仏教美術史、日本古代美術史、文様史を横断する、東洋美術史入門の講義を授かった恩師である。 細身に格子柄のジャケット、時には蝶ネクタイ。お洒落な老教授だった。白以外に黄と赤だったか、二種類ほどの色チョークを手に握って登壇された。 明治の文人画家小杉放菴の長男であり、小杉小二郎画伯の父上だ。 「諸君ご存じでしょうかねえ、薬師寺の塔の屋根は、こうなってましょう?」 「根津美術館にある殷時代の青銅器は、こうですよ。それが周王朝となりますと~」 こともなげにサラサラと、黒板に図を描かれた。説明が済むとさっさと黒板消しを使われた。ああっ、と私は思った。で、…