一昨日、中秋の名月を観あげた空だ。 玄関先で伸びあがって、塀越しに東の空を眺めあげた。池袋の方角だ。今夜が中秋であれば、観月はできなかった。 ファインダーを通してみると、知らない町だ。あのお宅には、あのマンションのなん階にはどなたがお住いだと、存じあげる建物は数えるほどしかない。悪ガキ時分には、垣根の破れ目や、ひと様のお庭先を無断で通過する抜道まで掌握していた。お付合いあるなしにかかわらず、どの家にはどんな人がお住いか、おおよそ把握していたものだ。いつの間にか、見知らぬかたがたの町となった。 中学から電車通学した。悪ガキ仲間とは疎遠になっていった。大学生になると、家はますます夜食を食うために帰…