新庄嘉章、私が拝見したのはご定年直前。もっとご高齢でいらっしゃいました。 野坂昭如さんには、鉄板ネタのツカミというか、ご自身お気に召しておられたらしい噺の枕があった。 ――大学になんぞ通うつもりはなかったのが、急遽受験することに。文学部事務所の窓口を訪ねると、国文・英文・仏文があるという。外国語なんか勉強したことないから、では国文をと申込むと、国文も英文もすでに締切ったという。残るのは仏文科のみだと。じゃあそれで。 入試の面接担当は、入学してから判ったが、新庄嘉章先生。 「君は、フランス文学のうちでは、どんなものを読んだのかな?」フランスの小説だの詩だの、まったく知らないから、 「えっ、えーと…