探していたのはどこにでもある小さな一つの言葉だった

時間ができたら読もうと思っても、いざ時間ができるとほかのことに気が散ってちっとも読めていない。 スマホは肌身離さず持ち歩き、ふと空いたときに眺めている。空いてなくても眺めている。 本を読む時間がないという悩みをよく聞くが、うさぎの場合、時間ではなく別のナニかが足りていない。 若松英輔は、インターネットやスマートフォンがなかったとしても、読書離れは進んでいたのではないかと指摘する。 それは、読書にまつわる因習のせいである、と。 正しく読まねばならない。全部読まねばならない。教養として読んでおかなくてはならない。こうした窮屈な読書への向き合い方が、人々を読書から離れさせたのだという。 因習とは、囚…

ここ数日、やらなければならないことに頭を抱えている。 これからの人生どう生きるか、うさぎ一頭の問題ではなく、妻や子うさぎを養わねばならない。 路頭に迷うほど切迫しているわけではないが、首筋に刃物を当てられているような、ぞくりとする不安がつきまとっている。 どう生きるかという巨大な壁に立ち尽くす間も、日々は刻々と過ぎていく。 家のこと、子うさぎのこと、仕事のこと。手続きと手続きのサンドイッチに疲れ切って、心も体も休まらない。 すべて放り出して、投げ捨ててしまいたい。 そんなときに、立ち止まらせてくれた言葉がある。読むことについて述べた文章だが、生きることに置き換えても通じるように思う。 現代人は…

本屋や図書館に行っても何も選べないという時期があった。 背表紙を滑るように眺め、何冊かを手に取り、開いてみるが、文字を文字として受け止められず、初めてみる言語のように拒絶された。 読まなくてはならないという焦燥感のようなものに突き動かされ、手当たり次第に本に手を伸ばしたが、本は何を語ることもなく、うさぎは何を受け取ることもなかった。 当時のうさぎは、「何を読むか」「どう読むか」と選択や方法ばかりを問うていた。それらの根本にあるもっと大切なものに目が向いていなかった。 そのように過去を振り返ることができるようになったのは、一つは時間のおかげだ。 人間の皮膚は約一ヶ月で新しく入れ替わるという。古い…