とくに目的があったわけではない。本を探していたわけでもなかった。けれど、平積みされたビジネス書の一角には、なぜかいつも立ち寄ってしまう。そこには、いつも通りのことばたちが並んでいた。まっすぐで、鋭くて、外の世界を測るための言葉たち。 その中に──ひとつだけ、まるで 違う世界から来たような本 があった。 それは、深い緑の装丁だった。苔のような、あるいは濃い海の底のような色合い。静かで、深くて、触れると吸い込まれそうな気配 を持っていた。 それは、目立とうとしていないのに、どうしても目が離せなかった。言葉よりも先に、沈黙が届いてきた。それは「積まれている」というより、そっと置かれている ように見え…