流行り病の少し前のことだったろうか。学校の塀沿いの路を歩いていると、ちょうど放課の鐘がなった。暖かい季節のことであるから、玄関からわき出した子供たちが校庭へ飛び出して、帰宅前のひと遊びに興じているところを横目に、よきかなよきかな、と通り過ぎようとしたところ、突如へんてこな言葉が聞こえてきたので立ち止まった。 「ジャングルジムの上には立ちません。ジャングルジムの上には立ちません。」 面妖な発言である。いったいどこから聞こえてくるのかしら、と校舎の方を見やると二階の教室のベランダから教員と思しき男性が、自慢のよく通る声を響かせていることが了解された。「ジャングルジムの上には立ちません。」はじめ私は…