四月になった。 衣がえの衣服、 美しい夏の帳《とばり》などを入道は自家で調製した。 よけいなことをするものであるとも源氏は思うのであるが、 入道の思い上がった人品に対しては何とも言えなかった。 京からも始終そうした品物が届けられるのである。 のどかな初夏の夕月夜に海上が広く明るく見渡される所にいて、 源氏はこれを二条の院の月夜の池のように思われた。 恋しい紫の女王《にょおう》がいるはずでいてその人の影すらもない。 ただ目の前にあるのは淡路《あわじ》の島であった。 「泡《あわ》とはるかに見し月の」 などと源氏は口ずさんでいた。 泡と見る 淡路の島のあはれさへ 残るくまなく 澄める夜の月 と歌って…