『時に佇つ』/佐多稲子/講談社文芸文庫/1992年刊 ライター業を廃した理由は、その気になれば二ダースは挙げられる。後付けの説明にどの程度の本当が含まれるかは保留として、諸々の中でおそらくはこれが根本的な問題だったかなと現時点で思うのは、良い原稿を書けたときに限って良くないことが起きることだった。 書くなら良いものを書きたいと思って自分なりに尽くす。結果、思ったよりは良く書けた、良い反響が得られた。すると、そのことを起点として良くないことが起きる。嫉妬ややっかみを買う程度なら不愉快の一言で片付けられるけれども、大切な人との関係が取り返しのつかない方向に捻じ曲がっていった、その捻じ曲げる力の一つ…