源氏は御堂《みどう》へ行って 毎月十四、五日と三十日に行なう普賢講《ふげんこう》、 阿弥陀《あみだ》, 釈迦《しゃか》の念仏の三昧《さんまい》のほかにも 日を決めてする法会《ほうえ》のことを 僧たちに命じたりした。 堂の装飾や仏具の製作などのことも御堂の人々へ指図してから、 月明の路《みち》を川沿いの山荘へ帰って来た。 明石の別離の夜のことが源氏の胸によみがえって 感傷的な気分になっている時に 女はその夜の形見の琴を差し出した。 弾《ひ》きたい欲求もあって源氏は琴を弾き始めた。 まだ絃《いと》の音《ね》が変わっていなかった。 その夜が今であるようにも思われる。 契りしに 変はらぬ琴の しらべに…