雨しとどに降る京の宵(よひ)、御簾の奥にひとり伏す姫君、名を 七緒(ななお) と申す。 幼き頃より病弱にして、日の光を追うことすら叶わず、春の花にも夏の蝉にも、遠き縁にありぬれど、ただひとつ、傍にて笑顔を見せてくれし若き郎(いらつこ)朝明(あさけ)のみが、彼女の心の支えなりける。 「なぜかしら、雨の日は……心が落ち着くのです」 ある日、姫がそう洩らしたとき、朝明はそっと答えた。 「それは、空が泣いてくれるからでしょう。 代わりに泣いてくれる雨が、姫の悲しみを洗い流してくれるのです」 その言の葉は、七緒の胸の奥に小さき灯をともした。たとえ空が曇りて世界が沈みても、「君は君のままで良い」と言うよう…