月刊文芸誌『南北』(1967年4月号) 渋谷が芸術・文化の発信地ですってェ? では申しましょう。今は昔の物語。 渋谷駅から神宮通りを北上して、右に大盛堂書店の看板を眼にしながら左折すると、公園通りに入る。渋谷公会堂へと続くなだらかな登り坂で、街灯すらなく、陽暮れれば薄暗くなる道だった。途中左手に一軒だけ、照明を点す店があった。喫茶店・渋谷ジローだ。 そこで山崎正和潤色によるソフォクレス『オイディプス王』が上演された。紅茶を喫みながら小劇場演劇を鑑賞する、という試みである。 夜九時開演。催したのは劇団俳優小劇場(劇団俳小と略称されていた)による「シアター9」なる企画で、早野寿郎演出、主演は小山田…