【平家物語44 第2巻 善光寺炎上】 同じ頃、信濃善光寺が火事にあった。 この寺の本尊である如来は、 昔、中天竺《ちゅうてんじく》舎衛国《しゃえこく》に、 五種の悪疫が流行した時、 月蓋長者《がっがいちょうじゃ》が竜宮城から 閻浮檀金《えんぶだごん》を取り寄せて、 釈尊、目蓮《もくれん》長者《ちょうじゃ》と 三者が心を合せて鋳造した、阿弥陀如来の霊像といわれた。 それが仏滅の後五百余年、 天竺に留まり、後|百済《くだら》国に移り、 一千年を経て、欽明《きんめい》帝の御代に日本に渡り、 摂津国難波の浦の底深く金色の光を放っていた。 たまたま、 信濃国の住人に本多 善光《よしみつ》という男がいて、…