あの子は、きょうもベンチに腰かけている。 毛並みの色がくすむほどの冬を越えたというのに、 背中にはまだ寒さが宿っている。 私はちょっと離れた砂場の影から、 その背中を見ている。 スマホをベンチに置いて、スピーカーで誰かと話している。 声の主は、同じ年頃の友達らしい。 「なんでだろ、あれだけやったのにさ……」 あの子が呟く。 声のトーンは平坦。 でも、しっぽを踏まれた猫みたいな痛みが、 言葉の端っこににじんでいる。 「偏差値も足りてたし、先生にも大丈夫って言われたのに。 ……全敗だった」 あの子の言葉は、風に溶けていく。 誰にも聞こえなければ、 なかったことになるとでも言うように。 「ほんとは、…