卓抜な作戦も、遂行者の力量によっては、功を奏さぬ場合もある。 村木さんという、とんでもなく魅力的はお婆ちゃんが、ご近所にいらっしゃった。半世紀も前のことである。独りで間借り暮しされ、そこで和裁教室をなさっていた。教室といっても、村木さんを慕うご近所の奥さんやお嬢さんがたが、曜日を決めて寄合い、愉しくお喋りしながら縫物をする、クラブ活動のごとき集りだった。技術付き井戸端会議の趣である。 母もお弟子の一人で、決められた曜日には欠かさず出掛けていた。かつて旧制女学校の被服科生徒だった母は、裁縫もひととおりは身につけていたし、浴衣をほどいて洗い張りしたうえで縫い直すことなども、独りでやってのけた。わが…