明治八年、最初の屯田兵たちが北海道の地を踏んだ。 青森県より旧会津藩士四十九戸、宮城県より仙台士族九十三戸、山形県より庄内士族八戸、その他松前士族等々、合計百九十八戸に及ぶ人間集団が青森港から小樽の港に渡ったのである。 その中に、安孫子倫彦の姿もあった。 (小樽港) 旧会津藩士四十九戸の中の一。十一歳の幼さで二本松城の陥落に見(まみ)え、故郷を焼け出される辛さを味わい、戦後は戦後で下北半島、本州に於ける「北の果て」に移されて、死ぬような苦労を重ね続けた人物である。 戊辰の際には元服前の前髪だったこの彼も、明治八年ともなると十九歳の立派な青年。 屯田兵の応募資格――「満十八歳以上三十五歳以下の士…