夜風がぬるくなってきた。糸島の桜も、海の光をまとって少しずつ色を増している。 「これ、ひまわりちゃんに……おすそ分けです」 そう言ってやってきたのは、小さな女の子とその母親。包みをそっと差し出すと、しんのすけがすぐにそばへ寄ってくる。 「去年もこの季節に来ましたよね」 マスターがそう言うと、母親が笑った。 「娘が“ひまわりちゃんにまたお菓子持ってく”って言い出して。あれから、うちでもたまに桜餅を作るようになったんです」 小さな包みの中には、手作りの桜餅がふたつ。淡いピンクの餅生地に、ふっくらとした粒あん。桜の葉は塩気をまとうが、それすらやさしい香りに変わっていた。 マスターはお返しに、店で炊い…