唐土にも、かかる事の起りにこそ、 世も乱れあしかりけれと、 やうやう、天の下にも、 あぢきなう人のもてなやみぐさになりて、 楊貴妃の例も引き出でつべくなりゆくに、 いとはしたなきこと多かれど、 かたじけなき御心ばへのたぐひなきを頼みにてまじらひたまふ。 唐の国でもこの種類の寵姫《ちょうき》、 楊家《ようか》の女《じょ》の出現によって 乱が醸《かも》されたなどと蔭《かげ》ではいわれる。 今やこの女性が一天下の煩《わざわ》いだとされるに至った。 馬嵬《ばかい》の駅がいつ再現されるかもしれぬ。 その人にとっては堪えがたいような苦しい雰囲気の中でも、 ただ深い御愛情だけをたよりにして暮らしていた。 父…