脳髄の出来と品位の高下は必ずしも一致せぬ、いやいやむしろ、釣り合う方こそ珍しい。 禍乱の因子(タネ)はいついつだとてそこ(・・)にある。才に恵まれ生まれ落ちると人間は、増上慢になりがちだ。あまりに容易く世界のすべてを見下して、「自分以外の誰も彼もが馬鹿に見えて仕方なくなる色眼鏡」を無自覚のまま装着(かけ)ちまう。周囲はむろん、本人にとっても不幸なことだ。 なればこそ、脳髄の出来と品性と、それから身体能力までもが見事に一致した漢(おとこ)、嘉納治五郎は言ったのだろう、 「品性の伴はない才能は世に害をなす事が少なくないが、才能の伴はない品性は、よし大裨益をなす事がないにせよ、害を及ぼすことはないの…