『母なる夜』カート・ヴォネガット著 池澤夏樹訳を読む。 第二次世界大戦中、ハワード・W・キャンベル・ジュニアはアメリカ人でありながらナチス・ドイツの「ラジオプロパガンダ」を請け負い、スパイとして活躍した、いわゆる売国奴。ところが、実態はダブルスパイだった。ナチス・ドイツのスパイと見せかけて有力な情報を収集してはアメリカに報告していた。戦後、彼はナチス・ドイツの手先として名を知られていたが、その実、アメリカのスパイだったことは依然秘密とされていた。 汚名と恥辱にまみえるが、本当のことを知る人は皆無に等しい。このアンビバレントに自身が引き裂かれそうになる。良心の呵責の念からか、法の裁きを選ぶ。そし…