『波止場日記 労働と思索』/エリック・ホッファー/田中淳・訳/みすず書房/1971年刊 肉体労働とか頭脳労働という言い方になぞらえて、自分は感情の労働者だ、と思っていた時期がある。たとえばある人物のインタビュー記事を引きうけると、その人の著書や過去の関連記事を読んで「ポイント」を探す。どんなに小さくてもいいから、好奇心や共感を寄せられるポイントを見つけて、それをできるだけ増幅させる。その人物に対面したときに「会えて嬉しい」「話を聞きたい」、そういう気持ちがなるべく自然に出てくるように自分で自分を仕向ける。増幅させた感情は、記事を書き終えるとほとんど同時に消え失せる。 取材対象は人物に限らず、店…