カルロ・ヴェッチェ著、日高健一郎訳『シビラの書 グーテンベルクの秘密』(みすず書房)は、15世紀半ばの活版印刷術誕生を背景に、現存する「最後の審判断片」という1枚の紙葉から着想を得て描かれた歴史小説である。歴史的史実の追及にとどまらず、サスペンスフルな物語性と詩的な哀歌(エレジー)が見事に融合した傑作だ。 物語は、幻視の能力を持ち口承で『シビラの書』を記憶する少女シビラと、文字を書くことに長けた双子の弟アダムを軸に展開する。異端審問官の追跡を逃れる二人の逃亡劇と、グーテンベルクの工房で進む技術開発のドラマが並行して描かれ、冒険譚としての推進力と歴史ドキュメンタリーの精密さを両立させている。 本…