「これは形見だと思っていただきたい」 宰相も名高い品になっている笛を一つ置いて行った。 人目に立って問題になるようなことは 双方でしなかったのである。 上って来た日に帰りを急ぎ立てられる気がして、 宰相は顧みばかりしながら座を立って行くのを、 見送るために続いて立った源氏は悲しそうであった。 「いつまたお逢いすることができるでしょう。 このまま無限にあなたが捨て置かれるようなことはありません」 と宰相は言った。 「雲近く 飛びかふ鶴《たづ》も 空に見よ われは春日の 曇りなき身ぞ みずからやましいと思うことはないのですが、 一度こうなっては、 昔のりっぱな人でももう一度世に出た例は少ないのです…