勝 海舟(1823-1899) 会ったうちで一番怖かった人は、だって? そりゃあ西郷だね。あと挙げるとすりゃあ、横井小楠かな……。勝海舟による、人物評価である。 大志の途半ばにして斃れて後進の戒めとなった人物たちと、生き延びて維新の元勲と称された人物たちとの、双方を等しく眺めることができて、歯に衣着せず遠慮会釈もなく、バサリと寸評しうる人となれば、明治三十年時点にあって、この人以外にはなかったはずだ。大久保利通や木戸孝允を回想すると同じ口調で、いまだ存命の山県有朋だろうが福沢諭吉だろうが、小気味よく評し捨てた。向学の若き徒は、翁の昔語りを執拗なまでに所望した。で、『海舟座談』一冊が残った。 汲…