本作を監督した増村保造に対し、私は「愛とエロス」を撮るフィルムメーカーという勝手なイメージを抱いていたのだが、その思い込みを見事に覆される重厚にして深遠な人間ドラマだった。でもよく考えてみれば、この映画の根底にあるのはひとりの女のエゴイスティックでひたむきなラヴなのだから、やはりこれは如何にも増村保造らしい一本と呼ぶのが相応しいのだろう 時は明治。貧しい家庭を助けるため、お兼は仕方なく還暦を過ぎた呉服屋店主の妾となった。お蔭で一家は食べるものにも着るものにも困らず暮らせはしたが、彼女の心は常に孤独さと寂しさで溢れ返っていた。そんなある日、店主が風呂場で倒れてそのまま息を引き取り、お兼は遺言によ…