そのいきものが下総御料牧場にやってきたのは、日露の戦火も未だ熄まぬ、明治三十八年度のことだった。 満州豚、都合六頭。 現今では「幻の豚」と称される希少種中の希少種であり、実食の機会を掴む為にはある程度の手間とカネ、そしてもちろん幸運が要る。 大連に出張していた某大官が、帰朝の際の手土産として特に積み込んだものという。 (Wikipediaより、大連港) ――ほんのお慰みに。 と、報告がてら明治大帝に献上したが、陛下はほとんど右から左の素早さで、六頭ぜんぶを下総御料牧場へと移してしまった。 その素早さを、当時の牧場長である新山荘輔その人は、以下の如くに解釈している。 私達、牧場のものは、西洋種の…