詩集を手にしたとき、沼の水面がゆらいでいる映像が脳裏に浮かんだ。音も色もなくかすかにゆれる水面。そのイメージは、薄明るいのに霧で見通せず、足元は暗くてより見えない不思議なカバー写真から想起させられたのかもしれない。 読みはじめてすぐに、そのイメージがそう外れたものではなかったことに気がついた。22作の詩篇の多くに水が流れている。海・湖・涙・汗・温泉・雨・袋の中の水。水は作品にとどまらず、動き、めぐっている。そのため個々の作品がゆるくつながりをもち、それぞれが呼応しあっている。そんな印象を持った。「水分れ」という作品を引用する。 夕刻に雨は強くなる 大きな欅のそばには 雨傘をさし てビールの缶を…