猫を棄てる 父親について語るとき (文春文庫 む 5-16)作者:村上 春樹文藝春秋Amazon 村上春樹がはじめて自身の父親について率直に書いたというエッセイ。全編通して、村上の小説や普段のエッセイの文体とはまた異なる、ごく淡々とした文章が連ねられているところが特徴的で、彼の文章からいつも感じられる、過剰なくらいの読者へのサービス感というのはほとんどないと言ってもいい。村上は、戦争によって大きく人生を変えられてしまったひとりの若者としての父親の姿を追っていくことで、彼の物語を、ある意味では心ならずも引き継ぎ、ある意味では自ら率先して受け継いでいこうとする。 もっとも、村上と父親のあいだにはか…