黄色いスタンプカードをポケットにしのばせ、初音小路「かづちゃんの店」で一杯引っ掛け、粋がった赤ら顔で劇場に潜り込む青二才。「みな殺しの霊歌」「赤毛」「日本暴力団・組長」に泣かされ、「集団奉行所破り」「昇り竜鉄火肌」「やくざ囃子」に打ちのめされ。終映後、すっかり日の暮れた六区を背に、電車賃ケチって上野まで歩き、「クラウンエース」でカツカレーを食べ、京浜東北線のドア脇にもたれ、東十条からの坂道をフラフラ登り、十条「五九六三」のカウンターでへたばりながらその日の名シーンを反芻。ああ、八海山のカップ酒をあと一本空ければ、きっと銀色の世界で安らかな眠りにつけるだろう。 岡本喜八「激動の昭和史 沖縄決戦」…