朝の散歩は近くのお寺と決まっている。参道を奥まで歩いて、きびすを返して帰ってくる。踏み切りのそばの広場で少しゆっくりして帰ってくる。これで大体二十分から三十分かかる。 ここな。 その日の朝。ユクは一瞬、鎌倉方面へ行きたがった。その動きに気づかなかったことにして、お寺への道を歩み出した。ユクも渋々ついて来た。こういうときの聞き分けはよい犬なのだ。信号のない横断歩道を大げさに手を挙げて渡る。渡りきったところで右に向く。前には踏切が見える。 ここな。 ユクが少し後ろ向きに歩いた。これはよくあることで、後ろの匂いがどうしても気になり、何がなんでも嗅ぎたいという意思表示を身体全体で行う。こうなると仕方な…