年に一度は白川道を読みたくなる。それは場末の酒場で無性に安酒をガブ飲みしたくなる気分に似ている。 雨上がりの夕暮れ時、盛り場の雑踏から逃れるように飛び込んだ裏路地の見知らぬ居酒屋。日陰の喜怒哀楽が焦げ付いた温風がエアコン代わりの換気扇に乗って火照った頬に吹き付ける。なぜか懐かしさに救われたように感ずる伏水の流れにも似た安らぎ。 「病葉流れて」シリーズは日本の現代版Bildungsromanともいうべき青春小説である。賭け事に天腑の才を持つ青年の無頼な生きざまと精神の成長過程を描く筆致はあいかわらず健在。主人公は著者自身がモデル、ナルシストが自己否定のポーズを取りつつ恥らいながらも奔放に展開して…