太宰治賞を受賞した「星への旅」や、映画化された「桜田門外ノ変」などの歴史小説など、多岐にわたる分野において活躍した小説家の吉村昭だが、やはり「戦艦武蔵」や「関東大震災」などの記録文学における第一人者としての評価が最も高い作家である。その作品は、史実と証言を徹底的に取材した上で膨大な資料との検証・調査を加えたもので、フィクションを極力避けて事実を正確に伝えることを心がけしていたようだが、「ふぉん・しいほるとの娘」のように創作部分が多く、フィクション本と認識されているものも一部存在する。私が最初に読んだ氏の作品は「熊嵐(くまあらし)」という、「Wikipediaで読み応えのある記事」として必ず挙げ…