1 はじめに 『漂泊の志士―北有馬太郎の生涯』は、筆者の幕末維新に関する人物探訪のすべての始まりであった。上梓の経緯は、この本の中で披瀝したが、ほかにも上梓を決意させるに至った忘れ難い二つの出来事があった。その一つは、回向院の北有馬太郎の墓所を訪ねた際のことであった。墓石の前に佇んでいた筆者の背後から突然、「その墓の子孫の方が、昨年島原から50年ぶりに墓参に見え、その際に資料を頂いたので、宜しければ差し上げましょう」、と声を掛けられたのである。それは、塋域を金色に染めた銀杏の葉を掃き集めていた寺の方であった。喜んで頂戴したその資料の中で、福岡県の久留米市立図書館に、北有馬太郎の日記が所蔵されて…