旅宿時雨といふことをよめる いほりさす楢の木 かげにもる月の 曇りとみれば 時雨ふるなり 瞻西法師 (詞花和歌集 150) 【通釈】 楢の木陰に設えた仮の庵に差し込む月の光――ふと曇ったかと思えば、時雨の気配が漂う。 【補記】 「庵(いほり)さす」とは、仮の庵を設ける意である。旅の途次、楢の木陰に仮の宿を結んだものの、屋根らしいものはほとんどない。楢の枯葉を打つ音に、時雨の訪れを悟ったのであろう。時雨とは、晩秋から初冬にかけて降る通り雨。やがて夜空は晴れ渡り、旅人は不安を抱えながらも、晩秋の山の風情に心を寄せたことであろう。 【主な派生歌】 吹くままにくもると見ればやがて又嵐にはるるむら時雨か…