仏国より帰朝せし閨秀音楽家の実歴 東京音學校助教授 神戸絢子 東京音楽学校助教授神戸絢子女史(三十二)は、一昨年 〔明治四十年:一九〇七年〕 の三月、文部省から選まれたフランスのパリに渡り、専らピアノを研究されて、六月十七日めでたく帰朝されました。一日 いちじつ 記者はパリ留学中のお話を承 うけたまは はらうと思つて、東京神田駿河台鈴木町のお宅へ伺ひました。まだ木の香の失せない新しい御門、それに続いて青葉若葉のすがすがしい植込。案内を請ふと、間もなくお二階の広間に通されました。 やがて優しい衣ずれの音と共に、薄い緑色の洋装をされた女史は、しとやかに出ていらつしやいました。 『ようこそおいで下さ…