風邪が流行っている。 ――じゃによって、マスクをつけろつけろと言っても、若い女性は見目への配慮が先行し、我々の忠告に無視を決め込む。 まったく沙汰の限りだ、と。 帝都の保健に責任を持つ、とある内務官僚が、しきりとこぼしていたものだ。 彼の名前は福永尊介。 大正九年の愚痴である。 (フリーゲーム『Dear』より) 思い通りに動いてくれない人民に、よほど業を煮やしたか。まさにこのとし、内務省では電気局と協議して、電車内での禁止行為リストの中に新たな項を加えることを決意した。 すなわち 「痰唾を吐くこと」「太腿を出すこと」「煙草を吸ふこと」 既存のこの三件に、 「手放しで咳すること」 を書き添えよう…