学生時代に、谷川徹三の影響を受けた時期があった。 今も熱心な読者はあるのだろうか。お若いかたには、詩人谷川俊太郎のお父上と説明しなければならぬかもしれない。肩書は哲学者という括りになっているのだろうが、芸術史・美学史に関する、柔軟で幅広い、啓蒙的エッセイストの著作として私は読んだ。『芸術の運命』が最初だった。 家庭環境にも生立ちにも、美術の素養を育む要素などなかった私には、たまたま物の本で知った対象に場当り体当りでのめりこみながら、見聞を広めてゆくしかなかった。必然的に知識は粗密まだらとならざるをえなかった。そのまだら模様たるやひどいもので、梅原龍三郎や坂本繁二郎の代表作を思い浮べることができ…