「オードリーヘップバーンみたいにしたい」 そう言ったのは、近所の常連のおばあさんだった。背筋がしゃんとしていて、白いブラウスを着こなし、靴まできちんとしている人。80代とは思えないほどのハリと気品があって、言葉づかいも美しい。いつもより少しウキウキした様子で、鏡の前に座ったその日、彼女はこう言った。 「オードリーヘップバーンみたいにしたいのよ」 カットを担当していた理容師は一瞬固まったようだった。真面目で腕はいい人。年配の男性が多く通う店の中で、女性の髪もたまに任されている。ただ、美意識の“ニュアンス”に関しては、少しだけズレることがある。 きっと彼の頭の中では、「ショートヘア=清潔感のある軽…