先日、オディロン・ルドン展で観た「黒の世界」。その奇怪で孤独な世界に引き寄せられ、フローベールの小説『聖アントワヌの誘惑』を読んでみた。聖アントワヌの誘惑 (岩波文庫 赤 538-6)作者:フローベール岩波書店Amazon ギュスターヴ・フローベールといえば『ボヴァリー夫人』と『三つの物語』の「素朴な人(純な心)」しか読んだことがないけれど、なんというか、一味違った、同じ人が書いたと思えない作風で面白かった。小説というよりは、戯曲が混ざったような構成で、内容的にもゲーテの『ファウスト』に似ている。 本作は、執筆を始めた1848年から約30年後にようやく出版された。仕上がりが酷評だったため、2度…